8割が業界未経験、しかも引く手あまた。建設業の“超”人材不足を救う「建設ディレクター」とは?
例えば土木の施工管理職は、1人の求職者に対し16件もの求人があるー。建設業界はいま、深刻な人手不足と高齢化に見舞われ、10年先、20年先の世代交代にも黄信号が灯る。かつてない危機を打ち破る救世主と注目されているのが、「建設ディレクター」という新職種だ。そんな中で人材確保に向けた議論を交わすパネルディスカッション「2030年の建設業をつくる人材戦略」(建設ディレクター協会主催)が、10月21日に「建設技術展2026関東」で開催された。パネラーを務めた転職エージェント「アンドプロ」の箕輪真人が語った業界再生の処方箋と、人材確保の鍵を握る建設ディレクターの可能性に迫った。
箕輪真人(みのわ・まさと)
建設業の人材紹介を専門に20年以上のキャリアを持つ。現在はアンドプロのエージェントとして、建設・不動産領域のブランディングマネージャーを務める。
これまで数千人の転職希望者にヒアリングしてきた実績と、深い業界理解をもとに、転職支援だけではなく業界の課題解決にも積極的に取り組む。日経クロステックをはじめ、ビジネス媒体、専門誌への寄稿も多数。
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変わらない「きつい現場」。人手不足の悪循環を止めるには?

「建設業界全体の有効求人倍率が約7倍、土木施工管理職に至っては約16倍。これまでにない超売り手市場が続き、現場の肌感覚としても企業側の採用は非常に厳しい状況です」
株式会社リクルートを経て、現在は転職エージェント「アンドプロ」の建設・不動産領域のブランディングマネージャーを務める箕輪は、強い危機感を口にする。
人材不足の主な理由は、端的に言えば「現場のきつさ」だ。業界も当然課題解決に取り組み、時間外労働は着実に減少してきているのだが、他の職種に比べて依然として高い状態が続いている。

箕輪は「きついから人が辞める、新しい人が採れない。残った人の負担がさらに重くなり、さらなる離職を招く悪循環にある」と指摘。実際に、日本建設業連合会提供の調査でも時間外労働が減らない要因として「一人当たりの業務量が多すぎる」「提出書類が多すぎる」といった理由が上位に挙げられている。

ではどうすれば人を減らさず、増やせるのか? その切り札として脚光を浴びているのが「建設ディレクター」だ。
多くの現場監督は工事の安全・品質を管理するだけでなく、事務所へ戻って膨大な書類作成や写真整理、データ入力をこなさなければならない。この過酷なデスクワークの負担こそが、長時間労働や離職の大きな要因となっている。
そこで生まれたのが、「現場監督の書類作成やIT業務を切り離し、オフィスからバックアップする」という建設ディレクターという職種だ。約30年にわたり建設業のデジタル化に伴走し、2018年に一般社団法人建設ディレクター協会を立ち上げた新井恭子理事長は、その効果をこう語る。
「建設ディレクターが事務やデータ処理を一手に引き受けることで、技術者は本来集中すべき『現場の指揮・安全管理』に専念できる。その結果、残業時間が劇的に減るだけでなく、現場にゆとりが生まれて工事の品質や安全管理の向上にもつながっている」
実際、導入企業では技術者の残業時間が月30〜40時間も削減されるといった確かな成果が出ている。
さらに驚くべきは「人を増やす」効果だ。これまでに誕生した約4,000人の建設ディレクターのうち、約8割(約3,000人)が建設業界未経験者。元保育士や異業種出身者、子育て中の女性がデスクワークや在宅勤務を通じて現場の頼もしい「相棒」となり、新たな担い手として業界に定着している。
箕輪も「未経験者を呼び込む『増やす』力と、労働環境を改善して仲間を引き留める『減らさない』力。その両方を同時に叶える素晴らしい職種」と太鼓判を押す。
仕事はあるのに、人がいない。建設・土木の可能性を広げるために
一方でここ10年の建設業界の工事需要は、右肩上がりが続く。日本建設業連合会の山本悟司専務理事によると、全国の建設投資はピーク時に迫る「年76兆円規模」まで回復。一方で働く人の数はピーク時から約3割も減少(約480万人)し、「仕事はあるのに人がいない」状況が続く。

さらに深刻なのが世代交代の危機だ。特に土木技術者において、現場責任者の半数以上が50代以上であるのに対し、次代を担うはずの30〜40代が抜け落ちる格好となっている。

そのうえで箕輪は、「多くの会社が経験者採用にこだわりすぎ、限られたパイを取り合っている。人的な総量が増えない『ゼロサムゲーム(イス取りゲーム)』に陥っている」と指摘。 この人手不足による労働環境の悪化と離職の悪循環を断ち切るためには、「(既存の人材を)減らさない」ことと「(新規入職を)増やす」という両輪をやり切る覚悟を持つことが前提となると強調した。
持続可能な建設業を支える環境づくりへの4つの提言
エージェントとしてこれまで数千人の転職希望者のヒアリングを行ってきた箕輪は、転職者側の実態や思いと、企業側の採用方針・手法にずれがあると指摘する。「転職希望者とその家族は、企業側が思っているよりも深く企業を観察している。労働条件や事業概要などをいくら詳しく書いても、求人票だけではなかなか人材は集まらない」
実際に、アンドプロの調査でも建設転職者の62%が働き方優先の選択をしており、箕輪は「こうした調査結果を踏まえ、求職者のニーズを押さえつつ、そこに対する取り組みや改善策を企業側が伝える努力をすることも大事」と付け加えた。

人材不足にあえぐ建設業の負のスパイラルを逆回転させ、好循環に向けていくため、箕輪は4つの視点が欠かせないと提言した。
- 変革を積極的に発信: 建設ディレクターやシニア人材の導入などで労働環境を改善している企業は、その事実を外部へ積極的に発信することで、採用も強化され、業界自体の発展にも寄与できる。
- 採用ターゲットの拡大: 経験者の奪い合いから脱却し、シニア人材、文系出身者、リスキリング前提の未経験者採用など、採用の間口を広げることが中長期的な事業成長につながる。
- 越境人材の活用: 社会変化に柔軟に対応するため、異業界からの「越境人材」を登用することが、ポートフォリオの多角化や組織の柔軟性を育む。
- 建設業そのもののブランディング: 建設業の「一品一様のモノづくり」の尊さや楽しさを、SNSなどで積極的に発信、ブランディング化していくことで、業界全体の人材確保に努める。
そのうえで、「『減らさない』と『増やす』の両輪を愚直に回し続けることが、2030年への正しい道だと思う」と重ねた。
会場には多くの参加者が集まり、熱心にメモを取る姿が散見された。ある企業の人事担当の男性は「建設業界の構造的課題について改めて理解が深まった。特に建設ディレクターの役割や可能性について詳しく学べたことが大きな収穫。自社でも導入や活用について検討してみたい」と振り返った。
ファシリテーターを務めた日刊建設工業新聞社の横川貢雄・常務取締役編集局長は、「発注者・受注者・制度が一体となって変わっていかなければならない」と指摘し、建設ディレクターが体現する「技術者・産業・社会の今と未来をつなぐ」方向性こそがこれからの建設業に求められていると総括した。
文・撮影:佐藤 将人(アンドプロ編集部)

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