建築士の将来性は?需要拡大の背景や市場価値を高める方法も解説
人口減少や材料費高騰、住宅着工戸数の減少といったニュースから、「将来的に建設需要が減少するのでは」と建築士の将来性に不安を感じる方もいるのではないでしょうか。
この記事では、最新の業界動向とデータに基づき、建築士の今後の需要と将来性をくわしく解説します。市場価値を高める方法やキャリア構築のヒントも紹介するので、ぜひ参考にしてください。
建築士の需要は高まっている
転職市場は売り手市場

※出典:厚生労働省「職業情報提供サイト job tag」の「建築設計技術者」のデータ(令和6年度実績)。
「2025年問題」に代表される高齢化(就業者数の減少)や「2024年問題」と呼ばれる時間外労働の上限規制の適用開始により、建設業界では深刻な人手不足が続いています。
建築士も例外ではなく、その需要が高まっています。建築士を含む設計職の有効求人倍率を見ると、2.85倍(建築設計技術者)と、設計職の転職市場は超売り手市場となっています。
建設需要は堅調に推移

国土交通省によると、2025年の建設投資見通しは前年度比3.2%増の75兆5,700億円となりました(「令和7年度建設投資見通し」)。インフラの老朽化対策や再開発需要を背景に建設投資は今後も伸びる見込みです。
深刻な人手不足が続く一方で、国内の建設需要は引き続き堅調に推移、一部企業では海外案件の需要も発生しており、建築士の需要は高まっています。
建築士の今後の需要と将来性

建設投資の伸びを背景に、建築士の需要は今後も拡大することが予想され、その将来性は明るいといえるでしょう。
非住宅領域:成長はしばらく続く見込み

非住宅領域では、物流施設やデータセンターの建設需要が拡大しているほか、都市部の再開発や老朽化施設の改修、エネルギー効率向上のためのリノベーションなどの需要も堅調です。
これら多様な需要を背景に、非住宅領域の成長はしばらく続く見込みです。
住宅領域:急激な市場縮小は考えにくい

資材費・人件費の高騰や、省エネ基準適合義務化による建築コストの増大により、新築の住宅価格が上昇しています。さらに少子化の影響もあり、新築住宅の着工数が減少しているため、国内市場は長期的に落ち着くという見方もあります。
一方で、リノベーション市場が急速に拡大しているほか、大手メーカーの海外進出や非住宅領域への事業拡大、地場の中小企業でもサービス差別化によるシェア拡大が進んでおり、市場・ニーズが急激に縮小することは考えにくい状況です。

コンサルタント
西田
非住宅では工事ストップの増加、住宅では新築住宅着工数の減少といったニュースもあります。ただ、建設業界全体で人手不足が慢性化しているため、多少のニーズの増減があっても建築士の需要は変わらないといえるでしょう。
人手不足により建築士の需要は今後も拡大

建設業界の就業者は55歳以上が36.7%、29歳以下は11.7%(国土交通省「最近の建設行政について」資料1)と、全産業の平均(55歳以上が32.4%、29歳以下は16.9%)と比べても高齢化が進んでおり、慢性的な人手不足の大きな要因になっています。
省人化や労働環境の改善に向けて、建設業界各社がDX推進や工期の適正化などに取り組んでいますが、高齢化による労働人口流出のスピードはすさまじく、需給ギャップは簡単には解消できそうにありません。
建築士の若手・中堅層が慢性的に不足

※出典:国土交通省「建設行政に係る最近の動向」(令和3年4月1日時点のデータ)
※所属建築士:建築士事務所に所属している建築士
建築士の高齢化も進んでいます。国土交通省が発表した一級建築士(所属建築士)の年齢構成を見ると、50代、60代が52.1%を占めており、若手・中堅層が慢性的に不足しています。
今後、数年のうちにベテラン層の多くが定年退職を迎えるため、若手・中堅層の建築士に対する需要がかつてないほどに高まっています。

コンサルタント
西田
若手・中堅層のニーズが高いとはいえ、そもそもの人数が少ないため、その層だけで企業の採用ニーズを賄うことはできません。そのため、50代以降のベテラン層であっても転職は十分可能です。
AIで建築士の働き方は変わるのか?
AIやBIMの進展により、建築士の仕事は将来的になくなるのではないかという声を聞くことがあります。
ですが、施主とのコミュニケーションを通して真のニーズや想いを汲み取ることや、それを実現するクリエイティブな提案、関係各所との複雑な調整と合意形成などは、AIやBIMには代替できないものです。
AIに代替されるのはあくまで「作業」であり、建築士が目指すべきはAIなどの技術を活用して、デザインやマネジメントなど本質的な業務に専念できる時間を作り出すことでしょう。
大林組や竹中工務店など、独自の設計支援AIを開発している企業もあり、今後、さらに建築士の働き方が変わっていくことが予想されます。
建築士として市場価値を高めるには
建築士として市場価値を高め、より良いポジションや年収を目指すにはどうすればいいのでしょうか。そのために必要な能力、資格、経験についてご説明します。
建築士に求められる能力

1対応力
近年、施主からの要望が高度化・複雑化しています。脱炭素に向けたエネルギー効率の向上や、周辺環境・景観への配慮など、クリアすべき課題が多くあります。さらに、昨今の資材費・人件費の高騰を受け、いかに予算内に収めつつ品質を担保するかというシビアな調整も求められます。
こうした課題をクリアしながら、最適なプランへと落とし込む対応力(課題解決力)は建築士にとって不可欠であり、市場価値向上に直結するといえます。
2コミュニケーション能力
建築士にとってコミュニケーション能力は必須です。
非住宅領域では、発注者や施工会社、行政など社内外のステークホルダーが多くなります。コンペティションで勝つためのプレゼンテーション力はもちろん、立場の違う関係者と意見をまとめ上げる高度な合意形成力が必要です。
一方、住宅領域においても、営業職とともに施主と直接コミュニケーションをとる機会は少なくありません。専門用語を使わずにわかりやすく説明したり、施主自身も気づいていない潜在的なニーズをヒアリングしたりするきめ細やかなコミュニケーションが顧客満足度に直結します。
キャリアアップに一級建築士は必須

非住宅領域では必須
法令上、一定規模以上の建築物は、一級建築士でなければ設計・工事監理ができません。
非住宅領域においては、ゼネコンや組織設計事務所などが手掛けるオフィスビルや大規模商業施設、公共施設といった、一級建築士の資格を保有していなければ仕事にならない案件が多く、プロジェクトの主担当やマネージャーポジションを目指す上では取得が必須です。
住宅領域でも多くのメリットあり
戸建て住宅や小規模店舗を中心に手掛ける住宅領域では、二級建築士の資格があれば日常業務をカバーできるため、実務上の不都合はあまりないといえるでしょう。
ですが、一級建築士を取得すれば担当できる案件の幅が広がり、RC造や鉄骨造の大規模住宅、店舗併用住宅など、複雑で単価の高い案件にも対応できるようになります。
また、一級建築士という資格そのものが信頼を生み、プレゼン成功率や受注率の向上、ひいては単価アップにも直結します。また昇進や昇給など、社内でのキャリアアップだけでなく、転職先の選択肢も広がります。
さらなる高評価につながる資格

構造設計/設備設計一級建築士は大規模な建築物を扱う企業でそれぞれ高く評価されることが期待できます。
これらの資格は難易度が高く、取得すれば社内でのキャリアアップや顧客からの信頼獲得につながります。
建築士として評価が高まる経験

1幅広いプロセスの経験
企業によって、設計職(建築士)が担当する業務範囲は異なります。大手企業のように分業化が進んだ環境で、特定の専門性を深めるのも選択肢の一つですが、ヒアリングから引渡しまで幅広い経験があれば、転職の際に応募できる求人の選択肢が広がります。
2VE・CDの経験
建設業界では、資材費や人件費の著しい高騰によって建築コストの増大が深刻な課題となっています。そのため、多くの企業でニーズが高まっているのが、建物の品質や機能を維持・向上させながらコストを最適化する「VE(バリューエンジニアリング)」や、無駄を省いて確実に利益を確保する「CD(コストダウン)」の提案・実施経験を持つ人材です。
デザイン性と採算性のバランスを見極め、コストというシビアな現実をクリアできる能力は、市場価値を高める強力な武器になります。

コンサルタント
西田
そのほか、建築/デザイン賞などの受賞歴があれば、スキルの客観的な証明となります。
また、住宅領域では2025年4月に施行された「4号特例縮小」の影響を受け、関連する事務処理対応の経験や「構造・省エネ」の実務計算スキルなどがあると評価される可能性が高まります。
建築士としてのキャリアを確かなものにするために
転職で待遇改善や案件の幅を広げるのもひとつの方法

転職市場が活況を呈している現在、建築士として経験を積み、キャリアアップしていくためには、転職もひとつの方法といえるでしょう。
大手企業や異業種に転職することで経験の幅を広げられます。また、一般的には、現職よりも規模の大きな企業であれば、年収や労働時間なども改善しやすい傾向にあります。
現在、建設業界では、資材費・人件費の高騰により、住宅/非住宅領域ともに業績拡大中の企業と経営が悪化(倒産)している企業の二極化が進んでいます。そのため、業績が安定した高待遇の企業への転職が増加傾向にあるのが現状です。
大手以外でも働きやすい環境を整備している企業が増えているため、そのような企業を見極めて転職することで、建築士としての将来性を確かなものにできる可能性が高まるといえるでしょう。
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