
37歳の初転職。英語力と調達経験を活かして「より難しい方」へ。IHI・航空エンジンの世界
大手自動車メーカーで購買企画・調達を経験し、2025年度にIHIへキャリア入社した藤居加奈美さん。航空・宇宙・防衛事業領域の資材部で、ジェットエンジンの部品・材料を調達しています。より難しい仕事を選んだ理由と、入社後に見えた働き方を聞きました。
藤居 加奈美(ふじい・かなみ)さん
株式会社IHI 航空・宇宙・防衛事業領域 資材部
2025年度にキャリア入社。前職では大手自動車メーカーで、北米・中国向け新車の調達企画やコスト管理、EV用インバーター、車載充電器などの調達を担当してきました。
価格より、供給を止めない
Q:現在はどのような仕事をされているのでしょうか?
航空・宇宙・防衛事業領域の資材部で、ジェットエンジンの組み立てに必要な部品や材料を、社外のサプライヤーから調達する仕事をしています。購入先を決めるだけではなく、IHIの工場へ部品を納入するところまでを管理します。

調達と聞くと価格交渉のイメージが強いかもしれません。ただ、航空製品は安全に直結するため、品質に対する要求が非常に厳しいんです。サプライヤーが必要な認証を得ているか、品質を安定して維持できるか、今後も生産能力を確保できるか。そうした点を、技術、品質、生産管理などの関係部署と一緒に確認します。
航空エンジンは、一度開発すると同じ設計・同じ部品で数十年にわたって生産を続けます。目先の価格だけで選ぶのではなく、長い期間にわたり品質のよい部品を安定して供給いただける相手かを見極め、信頼関係を築いていくことが重要です。

1945年、IHIの前身企業(石川島重工業)は日本初の国産ジェットエンジン「ネ20」を製造。
以後80年以上にわたり、日本の航空エンジン技術を支え続けている。
Q:前職の自動車業界と比べ、航空エンジンの調達にはどのような難しさがありますか?
自動車も品質や技術の水準は非常に高いですが、基本的には量産です。開発段階でつくり込み、その後は同じものを大量に生産していきます。一方、IHIでは少量生産です。ロットごとに、ひとつひとつ正しくつくられているかを厳しく確認する必要があります。
また、特殊な金属などを扱うと、世界でも「この材料をつくれるのはこのメーカーだけ」というケースがあります。代替先を簡単に探せるわけではありません。納期遅延などのトラブルが起きた時には、いつ入ってくるのかを自分で正確に把握し、工場にも説明して生産計画を調整してもらいます。
サプライヤーの選択肢が比較的多く、次の車種で取引先を変えるという判断もしやすい自動車とは、難しさが違います。いかに安く買うか以上に、いかに供給を安定させるか。そこに頭を悩ませる仕事です。
「より難しい方」へ行きたかった
Q:大手自動車メーカーから、なぜIHIへ転職されたのですか?
調達として、もっと力をつけたいと考えたことが大きいです。前職でも調達企画やEV関連部品の調達に携わり、幅広い経験をさせてもらいました。
その一方で、より取引先と直接向き合いながら仕事を進めたいという思いが強くなっていきました。また、新しいことに挑戦し、自身の成長の幅を広げたいという気持ちも高まり、新たな環境でチャレンジしたいと考えたことが、転職を検討するきっかけです。

転職活動では、メーカーを中心に調達職を見ていました。そのなかで航空業界は、自動車以上に品質や技術への理解が求められると聞きました。表面的な交渉だけでは務まらない、より難しい領域だと感じたんです。せっかく転職するなら、その難しさを経験してみたいと思い、IHIを選びました。
Q:文系出身で、技術的な知識を求められる調達職へ進んだ理由は何でしょうか?
大学ではイタリア語を専攻していました。もともと人とコミュニケーションを取ることが好きで、英語も学んでいました。一方で、日本の高いものづくりのレベルに関わりたいという思いもありました。
その二つを活かせる仕事として、調達に興味を持ちました。社内では技術、品質、生産管理、営業など、多くの部署と関わります。社外ではサプライヤーと英語で日々の納入についてやり取りし、契約の交渉も行います。人と向き合いながら、ものづくりを支えられるところが調達の面白さだと思います。
もちろん、技術的なことを一人ですべて理解できるわけではありません。入社後は研修で学び、わからないことは社内の有識者に聞いています。サプライヤーと高度な技術の話をする必要がある時は、関係部署のメンバーにも入ってもらい、議論を進めます。資材部の仕事だけで完結することはほとんどありません。

豊洲にあるIHI本社社屋(©PIXTA)
1年かけて、契約を妥結させた
Q:入社後、印象に残っている仕事を教えてください
取引先との供給契約の更新です。同じ取引先でも、5年ごとに契約条件を見直すことがあります。私が入社したタイミングで担当することになり、約1年をかけて妥結に至りました。
価格、供給量、品質、納期など、見直す項目は一つではありません。IHIとしてどこまで歩み寄りができるのかを、社内の関係者から情報を集めながら考え、サプライヤーとも交渉を重ねます。長期契約の条件を交渉するのは、私にとって初めての経験でした。
正直、私は強気に交渉することが得意なタイプではありません。それでも、やらなければ進みません。難しい交渉でしたが、最後に合意へ持ち込めたことは大きな手応えになりました。
Q:藤居さんが考える、よい調達担当者とはどのような人ですか?
調達は、製造業のなかで最も社外との接点が多い仕事の一つです。外に向けてはIHIの顔であり、社内ではサプライヤーの立場を伝える役割も担います。両方の顔を持つ仕事だと思います。
だからこそ、いろいろな情報を敏感に拾い、次に何が起きるかを想像することが大切です。厳しい交渉をしなければならない場面もありますが、相手の立場を理解し、信頼関係をつくることは欠かせません。
新しいサプライヤーへの発注を実現できた時や、自分が進めたいと思ったビジネスを形にできた時には達成感があります。トラブルが起きた時も、サプライヤーと一緒に課題に取り組み、解決までたどり着けたらうれしいですね。単なる発注者と受注者ではなく、同じ課題に向き合うパートナーでありたいと考えています。

「IHI=お堅い」のイメージは入社後に覆った
Q:入社前と入社後で、IHIへの印象は変わりましたか?
変わりました。入社前は、重工メーカーなので堅い会社なのではないかと思っていました。実際に入ってみると、まったくそんなことはありませんでした。
わからないことを聞くと親切に教えてくださる方が多く、初めての転職で不安だった私も、すぐに受け入れてもらえたと感じています。自分から臆せず話しかけ、自分で調べてもわからないことは聞くように心がけました。聞くことを歓迎してくれる人が多かったので、馴染みやすかったのだと思います。
社内では、品質や技術を大事にするという目線がそろっています。課題があった時も、社内での調整に時間をかけるより、同じ方向を向いて解決に進むことが多いです。
Q:キャリア採用者にも、早い段階から機会があるのでしょうか?
あります。希望者や選抜された社員がスキルアップを目指せる「IHIアカデミー」という講座があります。また、航空領域の組織を2040年に向けてどうしていくかを考える、ミッション・ビジョン・バリューに関する議論にも参加する機会がありました。
入社して約1年ですが、「キャリア採用だから」「入社したばかりだから」と距離を置かれる感覚はありません。教えてもらいながらも、仕事は任せてもらえます。キャリア入社者が集まり、役員から話を聞く場もあります。そこでは、キャリア採用で入った社員にもIHIを変えていく人材になってほしいという期待を、明確に伝えていただきました。
家庭と仕事を、どちらもあきらめない
Q:転職では、働き方も重視されていたそうですね
はい。子どもがいるため、家庭と両立しながら長く働けるかは、転職時に大切にしていました。

IHIには、子育て中の社員を支える制度がありますし、休暇も取りやすいと感じています。私自身、子どもの送迎などに合わせて、8時30分から17時30分を基本に働いています。業務の状況に応じて、自宅で仕事をすることもあります。
ただし、航空・宇宙・防衛に関わる仕事では、扱う情報の内容によって、出社しなければできない業務もあります。働く場所を一律に決めるのではなく、情報管理のレベルや業務の性質に応じて働き方を選べる点が、自分には合っています。
Q:キャリア入社者が馴染むためのサポートもありますか?
キャリア入社者は入社のタイミングがそれぞれ違うため、人事が横のつながりをつくる場を設けてくれています。同じ頃に入社した方と交流でき、すんなり職場に入っていきやすかったです。
キャリア採用者向けの研修も、上期・下期と定期的に行われています。会社がキャリア採用者を「人手を埋めるための存在」ではなく、組織を担い、変えていく存在として見てくれていることが伝わってきます。それも、転職してよかったと感じる理由です。
自分が関わったエンジンが、空を飛ぶ
Q:IHIの資材部では、どのような人が活躍できると思いますか?
品質を丁寧に確認し、責任感を持って仕事をやり切れる人だと思います。扱う金額は、案件によって何十億円規模になります。小さな見落としが大きな影響につながる仕事でもあるため、慎重さは欠かせません。
その一方で、社内外の多くの人と関わるので、一人で抱え込まずに周囲を巻き込むことも大事です。技術のことをさらに理解したい、サプライヤーとよりよい距離で仕事ができるようになりたいという思いを持てる人は、成長を実感しやすいと思います。

Q:最後に、転職を考えている方へメッセージをお願いします
航空エンジンは、航空機の性能を左右する重要な部分です。自分が調達に関わった部品がエンジンになり、実際に航空機が空を飛ぶ。その実感を持ちながら働けることは、大きなやりがいです。
IHIには、若手やキャリア入社者であっても、海外と関わる仕事に挑戦する機会があります。実際に、周囲には海外出張へ行く社員も多くいます。私自身も、まずは技術的な理解をさらに深め、サプライヤーとよりよい関係を築ける調達担当者になりたいです。
転職は不安もありますが、私は初めての転職で、新しい業界に飛び込みました。より難しい領域で調達の力を磨きたい、世界とつながるものづくりに関わりたいという方には、面白い環境だと思います。
文・撮影:伊藤 崇浩(アンドプロ編集部)
株式会社IHI関連情報
数字で見るIHI
キャリア採用比率:56.7%
2023年度大卒採用者に占める割合。すでに新卒採用を上回るペースでキャリア採用が拡大しています。
自己都合離職率:1.5%
「挑戦と応援」の文化や充実したキャリア支援制度が機能し、圧倒的な定着率の高さ、働きやすさに繋がっています。
育児休業取得率:男女ともに 100%
ライフステージの変化にも柔軟に対応し、長期的なキャリア形成を後押しする環境が整っています。
その他 年次有給休暇取得日数平均: 約20日、平均勤続年数: 16.0年など
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